『心と体と』

ドギツいアスペルガーが話を展開するストーリーは沢山あるけれど、この作品ではその属性が持つステレオタイプな特徴にあまり焦点を当ててなくて、あくまでそれを”個人が保有する欠損”として扱っている。アスペルガーサヴァン症候群という単語は出てこない。彼女は幼い時からカウンセリングに通い、死ぬほど几帳面で、記憶力は不都合なほど良く、コミュニケーションは最悪と言っていいレベルで下手だ。その属性から漏れ出す彼女自身の不器用さはとても愛らしくて、どんどん好きになってしまった。
男性の主人公はその対称、ハイコンテキストなコミュニケーションが上手な、管理職によくいるタイプの男性である。終盤に薬を盗んだ犯人と話す場面、自分の勘違いを歳下の社員に誠実に謝る場面はそのキャラクターがハッキリと浮かび上がっていて、「人の気持ちがうまく推察できない彼女」との対比になってる。デートで訪れたレストランのウエイトレスの勤務態度にムッとして皮肉を言うシーンもある。きっと目の前にいる彼女はその意味がわからない。
欠損がある2人が出会ってほにゃらら、という話なわけだけど、映画の中で食べ物を食べるシーンがやたらと長い尺で映る。そもそも2人の職場は精肉工場、2人の出会いは食堂、夢の話も食堂ですることが多く、初めてのデートも男性のオススメのお店でランチ、警察にはサーロインステーキがお土産として渡され、左手が不自由な男性はハムを床に落としてガックリして、葛藤する彼女マッシュポテトをゆっくりと握りつぶす。もちろんラストシーンも食事で終わる。他人と食事をするという行為そのものに何かしらの意味を持たせたい意図があるのだろう、そしてその解釈は観る人によって多様である。私の解釈についてはなんか恥ずかしいので書かないけど
そういえば書いていて思い出したけど夢の中でも女性はお腹がペコペコで「オスの鹿が分厚い葉っぱを掘ってくれて味は悪くなかった」などと言ってたので、夢の中でも食事の話であった。というか夢に関して全然触れないレビューとなってしまった。まあいいよね...